潜在意識に刷り込まれる幼少期の傷

また、やってしまった。

友達からLINEが来た。「ごめん、今日は行けなくなった」。

その瞬間、心臓がドキドキして、頭の中で考えが止まらなくなった。「私のせい?」「何か悪いこと言ったかな」「嫌われたのかもしれない」。

冷静に考えれば、友達には友達の都合がある。私とは関係ないかもしれない。それなのに、なぜこんなに不安になってしまうんだろう。

「もう気にしすぎるのはやめよう」って、何度も決めてきた。でも気づいたら、また同じことを繰り返している。

頭では分かっています。でも体が勝手に反応してしまう。心が勝手に不安になってしまう。

こういうこと、ありませんか?

仕事で小さなミスをしただけで「私は本当にダメだ」と落ち込む。誰かに何か頼まれると、疲れているのに断れない。「何が食べたい?」と聞かれても、自分の希望が出てこない。

頭では「気にしすぎ」だって分かっている。「もっと自分を大切にしなきゃ」って思っている。

でも、変えられない。

なぜでしょうか?

それは、幼少期の経験があなたの心の奥深く——潜在意識——に刻み込まれているからです。

前回の記事では、幼少期が人格形成にとって重要な時期であることをお話ししました。今回は、もう一歩踏み込んで、「なぜ幼少期の傷はこれほど深く刻まれるのか」、そのメカニズムを詳しく見ていきます。

潜在意識という「見えない領域」

まず、潜在意識について簡単に触れておきます。

朝、目が覚めて歯を磨くとき、「今日はどの歯から磨こうか」なんて考えていますか?考えていないですよね。体が勝手に動いています。

通勤や通学のルートも同じです。毎日通っている道は、もう地図を見なくても着きます。考えなくても、体が覚えています。

これが潜在意識の働きです。あなたが意識していないけれど、確実に存在している心の領域。

海に浮かぶ氷山を想像してみてください。水面の上に見えているのは全体の5%くらい。これが顕在意識——あなたが「意識できる心」です。でも本当に大きいのは水面下の95%。これが潜在意識なんです。

そして、この潜在意識に最も深く刻み込まれるのが、幼少期の経験なのです。

なぜでしょうか?

なぜ幼少期の傷は深く刻まれるのか

「もう30代なのに、なぜ子供の頃のことが影響するの?」と思いますよね。あれから何十年も経っているのに。

幼少期の傷が消えない理由は、大きく3つあります。

理由1:脳がまだ柔らかかった

子どもの頃の脳は、まだ固まっていない濡れたコンクリートみたいなものです。

打ちたてのコンクリートを想像してみてください。まだやわらかくて、上を一歩歩くだけで足跡がくっきり残ります。落ち葉を置けば、その形がそのまま型として残ってしまう。

それと同じように、幼少期の脳は、見たもの、聞いたこと、言われた言葉、感じた空気——それらを良い・悪いの区別なく、そのまま跡として刻み込んでいきます。

よく「3歳までに脳の8割が完成する」と言われますが、まさにこの時期は、脳のコンクリートがまだ柔らかい時期です。親の表情、口調、家の空気感、「怒られたときの緊張」や「褒められたときの安心」など、あらゆる体験がそのまま足跡のように脳に押し込まれていきます。

そして、大人になる頃には、そのコンクリートはほとんど固まった状態になります。

固まったコンクリートの上を歩いても、もう新しい足跡は残りませんよね。模様を変えたければ、表面を削ったり、上から新しい層を重ねたりしないといけません。時間も労力もかかります。

大人になってから、「親の言葉の影響を消そう」「自己否定のクセを書き換えよう」としてもなかなかうまくいかないのは、この”固まってしまったコンクリート”を相手にしているからです。

つまり、あなたが今苦しんでいる思考パターンや感じ方は、たまたま幼少期の”濡れたコンクリート”の上に、何度も何度も踏みつけられて残ってしまった足跡なんです。

あなたのせいで刻まれた傷ではなく、「その時そうするしかなかった脳の仕組み」で残った跡——そう捉えてもらえたら、この先の話も少し受け取りやすくなると思います。

理由2:毎日繰り返された

一度や二度の出来事なら、ここまで深くは刻まれなかったかもしれません。

でも、幼少期の経験は違います。毎日、毎日、何年も繰り返されたんです。

あなたが毎日通っている道を思い出してください。最初は地図を見たり、道順を確認したりしていましたよね。でも毎日通ううちに、もう何も見なくても着くようになりました。体が覚えてしまったんです。

そして面白いことに、新しい近道を見つけても、気づいたらいつもの道を通っていることがありませんか?慣れた道の方が、なんとなく安心するから。

脳も同じなんです。

「親の機嫌を確認する」という行動を毎日繰り返していたら、それが脳の中で「いつもの道」になりました。大人になっても、その道を自動的に通ってしまいます。

親から「あんたはダメね」と毎日言われていたら、「私はダメだ」という思考が「いつもの道」になります。何かあるたびに、自動的にその道を通ってしまう。

一度だけ言われた言葉なら、忘れられたかもしれません。でも、何百回、何千回と繰り返されたから、脳に深い溝ができてしまったんです。

理由3:生きるために必要だった

でも、一番重要な理由はこれです。

子供にとって、親は生存そのものだった。

大人になった今なら、嫌な人がいれば距離を置けます。自分で稼いで、自分で生きていける。

でも子供は違います。親がいなければ、食べることも、寝る場所を確保することも、何もできません。親に見捨てられたら、文字通り生きていけないんです。

だから子供の脳は、必死に学習しました。

「どうすれば親に愛されるか」
「どうすれば怒られないか」
「どうすれば見捨てられないか」

これは「知っておくと便利な情報」ではありません。「生き延びるために絶対に必要な知識」として、脳の最も深いところに刻み込まれたのです。

例えば、親がいつも不機嫌だった家庭で育った子供は、「相手の機嫌を察知する能力」を発達させます。なぜなら、親の機嫌を読み間違えたら、怒鳴られるかもしれない。叩かれるかもしれない。無視されるかもしれない。それは子供にとって、生存の危機なんです。

だから、「相手の機嫌を伺う」というスキルが、生存戦略として脳に深く刻まれる。

大人になった今、もう親の機嫌を伺う必要はありません。でも脳は、それを「生存に関わる重要な知識」として保存しています。だから、友達のLINEの返信が遅いだけで不安になる。上司の表情が少し曇っただけで緊張する。

あなたの脳は、あなたを守ろうとしているんです。子供の頃に学んだ「生き延びる方法」を使って。

ただ、その方法が、今のあなたには合わなくなっている——それが問題なのです。

なぜ「頭では分かっているのに」変われないのか

ここまで読んで、こう思ったかもしれません。

「理由は分かった。でも、なぜ変えられないの?」

それを理解するために、綱引きの場面を想像してみてください。

片方のチームには5人。もう片方のチームには95人が並んでいます。

「よーい、スタート!」の合図でロープを引っ張ったとき、どちらのチームが勝つかは、言うまでもないですよね。

どれだけ5人が全力で踏ん張っても、95人が本気で反対側に引っ張っていたら、じわじわとロープは95人側に引きずられていきます。

あなたの心の中でも、実はこれとよく似たことが起きています。

「もう人の顔色を伺うのはやめたい」「自分の気持ちを大切にしたい」——こうやって望んでいる”あなた”が、5人のチーム(顕在意識・5%)です。

一方で、「嫌われないようにしなきゃ」「怒らせたら危ない」「とにかく相手に合わせておけば安全」といった、幼少期に身につけた「生き延びるためのクセたち」が、95人のチーム(潜在意識・95%)として、反対側からロープを引っ張っています。

5人 vs 95人で綱引きをしているのに、「なんで私は勝てないんだろう」「私の意志が弱いからだ」と責めてしまう。

でも、本当は——あなたが弱いわけではなく、ただ単に、5%の力で95%に挑んでいるだけなんです。

だから、何度決意しても元に戻ってしまう。だから、「もうやめたい」と思っているのに、気づいたらまた同じパターンを繰り返してしまう。

これは、あなたの性格の問題でも、根性の問題でもありません。心の仕組みと、力のバランスの問題なんです。

それでも、変わることはできる

ここまで読んで、「じゃあ、一生このままなの?」と思ったかもしれません。

安心してください。変わることはできます。

脳には「神経可塑性」という性質があります。難しい言葉ですが、意味はシンプルで、脳は経験に応じて変わり続けるということです。

幼少期に作られた神経回路も、新しい経験によって変えていくことができます。固まったコンクリートでも、時間をかければ上から新しい層を重ねることはできるんです。

ただし、それには「気づく」ことが必要です。

自分の中で何が起きているのか。どんなパターンが自動的に起動しているのか。それに気づくことが、変化の第一歩になります。

次回の記事では、「顕在意識と潜在意識——なぜ気づきにくいのか」というテーマで、なぜ私たちは自分のパターンに気づけないのか、そしてどうすれば気づけるようになるのかを詳しくお話しします。

あなたへ

今日の記事で、一つだけ覚えておいてほしいことがあります。

あなたが変われないのは、あなたのせいではありません。

幼少期に、まだ柔らかかった脳に刻み込まれた傷。毎日毎日繰り返されて、深い溝になった思考パターン。生き延びるために必死で身につけた行動のクセ。

これらは、あなたが望んで身につけたものではありません。子供だったあなたには、他に選択肢がなかったんです。

今、それが生きづらさになっているとしても、あの頃のあなたは、ただ生き延びようとしていただけ。

だから、自分を責めないでください。

そして、知っておいてください。変わることは可能だということを。

時間はかかります。簡単ではありません。でも、仕組みを理解して、少しずつ取り組んでいけば、変わることはできます。

次回の記事では、その第一歩となる「気づく」ということについて、詳しくお話ししていきます。

一緒に、少しずつ進んでいきましょう。


まとめ

潜在意識とは

  • あなたが意識していない心の領域(氷山の水面下95%)
  • 幼少期の経験が最も深く刻み込まれている

なぜ幼少期の傷は深く刻まれるのか

理由1:脳がまだ柔らかかった

  • 子供の脳は濡れたコンクリートのようなもの
  • 3歳までに脳の8割が完成
  • あらゆる体験がそのまま刻み込まれる
  • 大人になると固まり、変えるのに時間がかかる

理由2:毎日繰り返された

  • 一度ではなく、何百回、何千回と繰り返された
  • 脳の中に「いつもの道」ができた
  • 自動的にその道を通ってしまう

理由3:生きるために必要だった

  • 子供にとって親は生存そのもの
  • 「生き延びるための知識」として深く刻まれた
  • 脳は今もそれを「重要な生存知識」と判断している

なぜ変われないのか

  • 5%の顕在意識 vs 95%の潜在意識
  • 5人 vs 95人の綱引きのようなもの
  • 意志の問題ではなく、力のバランスの問題

それでも変われる

  • 脳には神経可塑性がある
  • 「気づく」ことが変化の第一歩
  • 時間はかかるが、変わることは可能

メタ情報

  • カテゴリー: 2. 心理メカニズム
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  • キーワード: 潜在意識、幼少期、神経可塑性、脳の発達、トラウマ、生存戦略
  • 参考文献:
  • 神経可塑性に関する研究
  • 幼少期の脳発達(3歳までに8割完成)
  • 潜在意識と顕在意識の割合(95%と5%)

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